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 そのあとの川島祐二の行動は、迅速で的確だった。

「さつきちゃんがしっかりしないでどうする!」
呆然と座り込んでいるわたしを叱りつけて正気に戻すと、とりあえずみっこをわたしに任せ、川島君は森の外に飛んでいった。
が、すぐに戻ってくると、濡らしてきたハンカチで、みっこのからだに付いた血や泥を拭ってやり、自分の着ていたカーディガンを羽織らせ、スカートを直して破れたストッキングを脱がせると、引きちぎられた泥まみれのショーツを拾って、自分のポケットに素早く突っ込んだ。

「行こう。さつきちゃん」
早口でそう言うと、川島君はみっこを抱えかかえるようにして、足早に歩きだす。
「どっ… どこへ?」
「駐車場。みっこを家に送るんだ。みっこも、それがいいだろう?」
川島君が尋ねると、みっこはうつむいたまま小さくうなずいた。
「うん。じゃあ、行こう。あ、そこのバッグ、さつきちゃんが持ってて。もう落ちている物がないか、よく探しといてくれ」
地面に転がっているみっこのバッグを差して、川島君はわたしに指図した。今はなにも考えず、わたしは黙って彼のし指示に従った。
「いいか。さつきちゃん」
できるだけ人目につかないように歩きながら、川島君は小声で言う。
「だれになにを聞かれても、『なんでもない』って言うんだ。どうしても答えるときは『みっこが池に落ちた』って言うんだぞ」
「だけど、藤村さんたちには…」
「もう会ってきた。星川先生はいちばん近い駐車場に、ぼくのクルマを回してくれているはずだ。みっこの友だちのふたりの女の子には、打ち上げパーティに行ってもらって、『みっこは行けなくなった』って、伝言頼んできた」
川島君は念を押すように、わたしを見つめる。

「いいな、さつきちゃん。みっこは、池に、落ちたんだ!」

川島君の迫力に気圧され、わたしはうなずくしかなかった。

 何人かの知り合いの女の子をうまくやり過ごし、駐車場にたどり着くと、そこには藤村さんと星川先生が、赤い『フェスティバ』の中で待っていた。
わたしとみっこを後部座席に乗せると、川島君は星川先生と席を代わって運転席に着く。素早くイグニションキーを回し、ギアをローに入れると、カーコンポのスイッチを入れ、音楽を流した。
モーツァルトのハープとフルートのデュエット。
ゆったりとした静かなメロディが、心を落ち着かせてくれるよう。

 クルマは街なかを縫うように走り、10分ほどでみっこのマンションの前に、ピタリと止まった。
「川島君。みっこのマンション、知ってたの?」
「…」
わたしの質問には答えず、川島君はみっこをかばいながら、マンションのエントランスに駆けこんだ。
「暗証番号は?」
「3253」
かすかな声で、みっこが答える。
川島君はオートロックに番号を打ち込み、扉を解除すると、足早にエレベーターに乗り込み、迷いなくみっこの部屋の階のボタンを押し、わたしにみっこのバッグから部屋のキーを出させて、彼女の部屋に向かった。

 バタンと玄関のドアを閉じて、リビングのソファにみっこを座らせると、川島君はようやく安心したように、ほっと息をついた。
川島君のカーディガンにからだを包んだみっこは、わたしたちと視線を合わせるのを避けるように、ずっとうつむいたまま、部屋の隅を見つめている。

「なんとか家につけたね」
藤村さんは落ち着いた声で言う。
「ほんとにこれで、よかったんでしょうか?」
川島君は藤村さんに、確認するように訊く。
「まあ、ベターな選択だろう。スキャンダルは防ぎたいからね」
星川先生は川島君に尋ねる。
「その男たちも、未遂で逃げていったんでしょ?」
「ええ」
「じゃあ警察に通報しても、みっこちゃんにとって、いいことはひとつもないわね」
「ぼくもそう思います」
「手を擦りむいたくらいで、怪我も思ったより軽いみたいだし、不幸中の幸いだな」
みっこの状態を観察して、安堵するように藤村さんは言ったが、すぐに、悔しさを滲ませるような口調でつぶやいた。
「…にしても悔しいな、泣き寝入りなんて。川島君、そいつらをぶちのめしてくれればよかったのに」
「二・三発はぶん殴ってやったけど… ぼくも悔しいです」
「でも川島君、機転がきくわね。感心したわ」
「いえ… ぼくがもっと早く、みっこを見つけられたら…」
「川島君が自分を責める必要はないわよ」
「みっこちゃん…」
藤村さんはみっこの側に寄ると、彼女の頬を撫でる。みっこは怯えるようにピクリと反応して、藤村さんをじっと見つめていたが、無言のまま、うなずくように目を伏せた。
「今日はゆっくりと眠りなさい。あとのことはぼくたちの方でなんとかしてあげる。なにも心配ないからね」
「…ありがとうございます」
消え入るような声で応え、みっこは川島君のカーディガンに顔を埋めた。
藤村さんはしばらくみっこの顔を心配そうに見ていたが、こちらを振り向くと、申し訳なさそうに言った。
「ふたりともまだ、みっこちゃんの側に、いてあげられるかい?」
「はい」
「みっこの側にいてやりたいのはやまやまなんだけど、明日はどうしても外せない仕事があって、ぼくたちはもう引き上げなきゃいけないけど…」
「大丈夫です藤村さん。あとのことはぼくたちに任せて下さい」
「すまないな、川島君。なにかあったらすぐに連絡をくれよ」
「はい」
「さつきちゃんも、みっこのことをくれぐれも頼むわね」
「は、はい」
星川先生の言葉に、わたしもうなずいて答える。
今は…
そう答えるしかない。

「シャワー、浴びる?」
藤村さんたちが帰ってひと心地つくと、川島君はみっこに訊いた。彼女は小さくうなずく。
「さつきちゃん。みっこにシャワー浴びさせてやって」
「え? ええ…」
「いい… ひとりで入れる」
みっこはかぶりを振って、断った。
「そう? じゃあ、飲みたいものとか、ある?」
「…ココア」
「わかった」
みっこがバスルームに入っていくのを見届けると、川島君はわたしに指図する。
「悪いけどさつきちゃんは、みっこの服を出してやって。ぼくはちょっと牛乳を買ってくるから」
そう言って川島君は部屋を出ていったが、5分もたたないうちに戻ってくると、キッチンでココアを温めた。
「みっこ。着替え、ここに置いとくね」
「…」
すりガラス越しにみっこに声をかけたが、返事はなく、バスルームからはシャワーの音が聞こえてくるだけだった。
部屋から適当に見繕ってきた服を、わたしはそっと洗面台に置いて、バスルームを出た。

「…」

 みっこが戻ってくるまで、わたしと川島君はなにも喋らなかった。
凍りついたような、沈黙の時間が過ぎる。
みっこがシャワーを浴び終えるまで、時計の長針は半周も動いていなかったが、わたしには長い長い時間に感じられた。

 シャワーのあと、わたしの用意した服を着て、森田美湖はリビングルームへ入ってきた。
彼女はやっぱりうつむいたまま、黙っている。
川島君は熱いココアの入ったカップを持って、寄り添うようにみっこの側に立ち、カップを手渡すと、彼女にソファを勧めた。

「…なにかしてほしいこと、ない?」
長い時間をかけて、みっこがココアを飲み終えるのを見計らって、川島君が訊いた。
「…眠りたい」
みっこはやっぱりわたしたちの顔を見ないまま、まだぬくもりの残るカップを、両手で包んでつぶやいた。
川島君はみっこの手をとり、肩を押しながら、彼女を寝室に連れていき、ベッドに横たえ、毛布をかけてやった。
「じゃ、おやすみみっこ。今夜はもう、なにも考えるんじゃないよ」
川島君はそう言って、みっこにやさしく微笑むと、カーディガンを羽織り、隣で見守っていたわたしを促し、部屋を出ようとした。
だけどみっこはベッドから手を出し、川島君のカーディガンの裾を握りしめた。
わたしは思わず、ドキリとした。
みっこの瞳には、いっぱいの涙が溜まっていたのだ。
涙でうるんだ瞳で、彼女は川島君を見つめたまま黙っていたが、ようやく聞き取れるくらいのか細い声で、ひとことだけ言った。

「…いて」
「…」
川島君は立ち止まり、黙ってみっこを見つめる。
みっこもしばらく彼を見つめていたが、もう一方の手で毛布をまくり上げ、顔を埋めた。
「…いいよ。さつきちゃんと、ここにいるよ」
そう言って同意を求めるように、川島君はわたしを振り向く。わたしはうなずくしかなかった。

今は、なにも言えない。
なにか言い出すと、それがとんでもないことになっちゃいそうで、わたしは今夜だけは、自分の思考をすべて、ストップさせることにした。

『今夜はもう、なにも考えるんじゃないよ』

川島君のみっこへのアドバイスが、そのままわたしの心にも響いてきた。

 

 一晩中、わたしと川島君は、ほとんど口をきかなかった。
リビングのソファで眠れぬ夜を過ごし、ようやくウトウトとまどろみはじめた頃には、外はもう白みかけていた。
ガチャリとドアノブを回す音で、わたしは目を覚ます。
見ると、すっかり身支度を整えたみっこが、わたしたちのいるリビングルームのドアのところに立っていた。

「夕べはいろいろありがとう。お世話になりました」
わたしたちから少し距離を置いて立ち止まると、みっこはそう言って、ぺこんと頭を下げた。
ずいぶんと繕った、丁寧な口調。
だけどそれは、ファンデーションで隠そうとしている頬の青あざと同じように、彼女の傷ついた心を覆い隠すことは、できなかった。
「いいんだよ。気にしなくて」
睡眠不足で真っ赤になった目を無理になごませて、川島君はみっこに微笑む。
みっこはそんな川島君をじっと見つめていたが、今度はわたしに向かって、うなだれるように肩を落とし、つぶやいた。
「さつき… ごめんなさい」
「…っち、朝食、作ろうか?」
わたしも川島君と同じように、自分の感情を抑えるように、無理に微笑みを作って言ったが、彼女はかぶりを振った。
「ううん。いい」
「大丈夫かい?」
「心配、ない。ひとりにしといて」
「そう? じゃあ、ぼくたちも、そろそろ帰るよ」
「…ん」
「みっこ。なにかあったら、連絡して」
「…ん」
「さつきちゃん。行こうか」
川島君はわたしの肩をポンとたたき、ソファを立つ。
わたしも黙ったまま、立ち上がった。

みっこはわたしたちを、玄関まで見送った。
「じゃあ、みっこ。気をしっかり持ってね」
「…ん」
「藤村さんも言ってたけど、あとのことは心配しなくていいから」
「…ん」
「じゃあ、帰るね」
「…さよなら」

みっこは川島君の言葉にそう応えるだけで、伏せ目がちにしてわたしたちを見ず、ドアを閉じた。
川島君は何度も心配そうに振り返りながら、後ろ髪を引かれるように、みっこのマンションをあとにした。

それまでの間…

森田美湖と川島祐二が抱きあい、キスするのを見せられて、彼女を家まで送り、翌朝部屋を出るまで…

わたしがその後のような言動に出なかったのは、多分、親友だった森田美湖に対する、最後のいたわりの気持ちと、自分の醜態を、彼女にだけはさらけ出したくないという、女としてのギリギリのプライドがあったからだと思う。

 

「みっこ、大丈夫かな? もう少し側にいてやった方が、よかったかもしれないな。顔にアザができてたけど、仕事には差し支えないかな?」

まだ人通りのほとんどない、白く霞んだ肌寒い朝の街を『フェスティバ』で走りながら、川島祐二はずっと、森田美湖のことを気にかけていて、助手席のわたしに彼女の話ばかりしていた。

「川島君、どうやってみっこを見つけたの?」
「森の側を通りかかったとき、ちょうど悲鳴が聞こえたんだよ。みっこをあの森のなかで見つけたときは、ふたりの男ともみ合っているところで、押し倒されて服を破かれながらも、みっこは必死で抵抗していたんだ」
「…どうやってふたりもの男を、撃退したの?」
「そこらへんの棒切れを振りかざして、『やめろっ!』って後ろからぶん殴ったんだよ。不意をつかれたみたいで、ふたりともびっくりして、あわてて逃げていったよ。まあ、ぼくも必死だったから」
「勇気あるのね」
「そりゃ、みっこがあんな目にあってるのを見れば、だれでもそうするだろ」
「…そう。ね」
「それから、みっこの名誉のために言っておくけど、彼女はほんとに無事だったんだよ。もう少し遅かったら危なかったけど、間に合ってよかった」
「…ふ〜ん」

なにが『みっこの名誉のため』よ。
『みっこは池に落ちた』って、川島君はみんなを誤魔化そうとしたけど、『無事だった』ってのも、嘘かもしれない。
わたしにまで、嘘をついて…
どうしてそんなに、みっこをかばうの?
そんなにみっこが大事なの?

そりゃ、襲われているのを助けたのは、立派で、素晴らしいことだとは思う。
みっこも本当に気の毒で、なにかできることがあるのなら、わたしも力になってあげたいと思う。
だけど、昨夜からの川島君を見ていると、みっこを守ることばかりに懸命で、わたしのことなんて、これっぽっちも気に留めてくれていない。
ふたりキスして、そのあとだって、みっこにべったりくっついていて。
そんな光景を見せられて、わたしだって傷ついているというのに…
なんだか、不愉快。

「藤村さんとも話したんだけど、いちばんマズいのは、スキャンダルになることだと思うんだよ。こういう話って、たとえ未遂に終わったことでも、噂に尾ひれがついて、ひどい話になっていくからな」
「…」
「みっこのこれからのためにも、それは防がなきゃいけない」
「…」
「幸い、みっこも軽い怪我だけですんだし、このことを知っているのは、ぼくたちと藤村さんと星川先生だけだ。それなら、だれにも知られないですむはずだよ」
「…」
「さつきちゃんも、絶対人に言うんじゃないよ」
「…」
「いいかい?」
「…」
「さつきちゃん。どうしたんだ?」

川島君の話になにも応えず、助手席で黙んまりをきめているわたしを、ようやくおかしいと気づいたのか、川島君は訝しげにわたしを見た。

「さつきちゃん。どうして黙ってるんだ?」
「…」
「さつきちゃん?」
「…」
「なんとか言いなよ」
「…」
「さつきちゃん!」
「川島君… みっこにはやさしいのね」
「え? そりゃ、さつきちゃんの親友だし、こういうときはだれだって、そうするだろ」

皮肉っぽい口調でそう言ったのに、川島君は全然それに気づいていない。
わたしはますますイライラしてきた。

「嘘!」
「え? どうして?」
「…」
川島君の問いには答えず、口をとがらせて、わたしは昨夜のことを振り返る。
確かにみっこのことは、なんとかして慰めてあげないといけない。
助けてあげないといけないとは思うけど、ふつう、男の人がただの友だちの女の子に、あそこまでする?
みっこの身づくろいをしてあげたり、破れたストッキングを脱がせてあげたり、キスをしたり…
そして…

「川島君。みっこのマンションも、部屋も… 知ってるのね」
「あ…」

川島祐二は、言葉に詰まった。
そんな彼の様子に、わたしはいっぺんにカッとなって、口調を荒げながら言った。
「わたし、みっこのマンションを川島君に教えたことなんてないし、九重に行った帰りも、みっこを途中で降ろしたわ。
家まで送るのは、川島君の主義でしょ。
だから長崎にみっこと行った帰りに、彼女のこと、送ってきたのね?
部屋にも… みっこの部屋にも、寄ったことあるのね?」
「…」
川島祐二は言い訳もせず、黙っている。
その沈黙にわたしは狂いそうなくらい、胸が掻きむしられた。

信じられない。

ひとり暮らしの女の子の部屋に、行くなんて。
自分の恋人の親友の部屋に、のこのこ上がり込むなんて!
みっことあの部屋で、ふたりっきりで、いったいなにをしてたっていうの?

ものすごいスピードで、わたしの頭の中にいろんな妄想が暴走していく。
昨日見た、川島君とみっこのキスシーンや、モルディブでの夜に見た、藤村さんとのラブシーンが、それに重なる。
みっこのあの美しい肢体が、川島君に絡みつき、艶かしくあえぎ、川島君とひとつになる妄想は、鮮やかなナイフのように、わたしの胸を切り裂く。
なんだかもう、自分の気持ちを支えるものを全部なくしちゃった気がして、わたしはいっぺんに感情が爆発してしまった。

「どっちから誘ったのよっ!」
「さつきちゃん…」
「川島君、みっことは長崎だけじゃなくて、東京でも会ってたんでしょ?
わたしがいないのをいいことに、みっことディズニーランドとか行ってたんでしょ!」
「さつきちゃん?」
「全部知ってるのよ! 東京(むこう)じゃそうやって、ずっとデートしてたんじゃない?
ミッキーマウスの万年筆なんかでわたしのご機嫌をとろうとするなんて、バカにしないでよ!」
「確かにみっことは、東京で何度かふたりきりで会ったし、それをさつきちゃんに言わなかったのは悪かったけど…」
「やっぱり… 東京でみっこと会ってたのね!?」
「あ… ああ。でも、さつきちゃんに謝らなきゃいけないようなことは、ぼくはしてないよ」
「どうしてそんな、開き直ってるのっ? 会ってたのは事実でしょ!」
「会ってたって言っても、写真のモデルをお願いしてただけだよ」
「いつでも、モデル、モデルって! 都合のいい口実よね。そう言えばわたしが納得すると思ってるの?」
「さつきちゃんは、認めてくれないのか?」
「当たり前じゃない! ふたりっきりで撮影に出かけるなんて。デートと同じことじゃない」
わたしの言葉に、川島祐二は大きくため息をつく。
「だからさつきちゃんには、こういうことはあまり話したくなかったんだよ。ケンカになるのは目に見えていたから」
「なにを話したくないっていうの? わたしに黙って、みっこと浮気してたってこと?」
「そうじゃないって、前にも説明しただろ。ぼくはモデルとは、恋愛感情抜きで接するんだって」
「川島君に恋愛感情があるかどうかなんて、わたしにはわからないじゃない。そんなの勝手な言い分よ。男女がふたりっきりで会ってたら、それはデートと同じことよ。世間的には」
「世間的って。そんな俗っぽいことをさつきちゃんが言うなんて、思わなかったな」
「俗っぽいって… 現にみっこは、川島君に恋愛感情持ってたんだから、立派なデートじゃない!」
「だから、それは…」
「だいたい川島君にだって、『好き』って気持ちがなきゃ、モデルなんて頼めないんじゃない? 蘭(あららぎ)さんのことだって、ほんとは川島君も好きだったんじゃないの?」
「じゃあなにかい? ぼくは、さつきちゃん以外の女の子の写真は、撮れないのか? 撮っちゃダメなのか?」
憤然とした口調で、川島君は反論した。
その言葉は、わたしの火がついた鬱憤(うっぷん)に、よけいに油を注いだ。

「川島君にそんなこと言う権利があるの? わたしのこと傷つけてでも、みっこのこと、撮りたいの?」
「昨夜のことだったらあやまるよ。だけど、みっこのことを考えたら、ああするしかなかったんだ」
「『みっこ』『みっこ』って… わたしのことはどうでもいいの?」
「この場合、いちばん傷ついているのは、みっこだろ」
「目の前で抱きあってるの見せられて、キスするの見せられて、わたしが全然傷ついてないとでも思うの?」
「あんな状況で、拒むわけにもいかないだろう」
「はん。言い訳が上手よね。ほんとは嬉しかったんでしょ。あんな綺麗な子からキスされて、『好き』って言われて…」
「そんなことないよ」
「嘘!」
「…」
「わたし、騙されてた。みっこが好きな人は藤村さんだって、信じてた。
川島君からも騙されてた。
忙しいふりして、東京じゃみっことデートばかりしてたなんて!」
「デートばかりって…」
「『忙しい』って言い訳して、電話もロクにかけてくれなかったじゃない!」
「ほんとに仕事で忙しかったんだよ!」
「川島君ちにみっこも来たの? 泊まったりしたの?」
「そんなこと…」
「でもみっこは、川島君のアパートを知ってたじゃない。川島君も最初、アパートにわたしを入れてくれなかった。なにか秘密があったからでしょ? わたしに隠したいものがあったからでしょ!」
「そんなの、ないよ」
「もういいじゃない、嘘つかなくても。
アパートにはみっこがよく泊まりにきてて、みっこの服とか下着とかを置いてたって言われても、わたしもう驚かないから」
「くだらない妄想ばかりしないでくれよ。だいたいみっこがぼくのことを好きだなんて… 今まで全然、気づかなかったくらいなんだから」
「よかったじゃない。みっこみたいに綺麗で素敵な女の子をモデルにして、しかも恋人にもできるなんて。川島君にはもう、わたしなんて必要ないわよね。もう、わたしのことなんて、どうでもいいわよね」
「さつきちゃんはぼくのこと、そんな風にしか思ってないのか? なんだかがっかりだな」
「ひどいわ! どうしたらそんな風に言えるの?」
「…」
「そんなにがっかりなら、義理固くわたしを送ったりしないで、さっさとみっこの部屋に戻ればいいじゃない! わたしなんかにつきあうことないわよ。みっこだって、川島君が戻ってくれば喜ぶわ。わたしから好きな人を奪えるんだから」
「さつきちゃんはみっことは親友だろ? そんな言い方するなよ」
「あっきれた! よくそんなこと言えるわね。
親友も恋人も、わたしの大事にしていたものを、ふたりして次から次に壊していったくせに!」
「…」
「なにも言い返せないでしょ。だってほんとのことだもん」
「さつきちゃん。もうちょっと落ち着いて話そうよ。これじゃまともな会話ができない」
「『まともな会話』って、なにを話したいっていうのよ」
「文化祭のときに言ったじゃないか。『あとで話す』って」
「星川先生の『返事』のこと?」
「そうだよ」
「じ今話してよ。わたし、落ち着いてるから」
「また今度、ゆっくりしたときに話すよ」
「またそうやって、わたしにないしょにするの? どうせロクな話じゃないんでしょ!」
「もういいから」
「そこまで言って話さないのって、ないでしょ。今言ってよ!」
「またな」
「話してよっ! 今すぐ!」
「う… ん。 …まあ、早く返事しないといけないし…
実は、今日が星川先生に返事する日なんだ」
「だから、なんの返事?」
「さつきちゃんにも相談したかったんだけど、昨日はあんなことになったから、言いそびれちゃって」
「いいから、早く話して」
「実は、星川先生から、『自分の東京のスタジオで働かないか?』って、誘われてて…」
「嘘つきっ!」
わたしは興奮して叫んだ。

「川島君、わたしが『星川先生の所で働くの?』って訊いたとき、『そんなことじゃない』って答えたじゃない! また嘘ばっかり!」
「ごめん。あれは… あのとき、さつきちゃんとまた、揉めそうだったから…」
「だから嘘つくわけ? 誤魔化したってすぐバレるのに!」
「さつきちゃんとは夏休みの前にも、東京に行く行かないで、さんざんケンカしただろ。そんなことで言いあうのは、ぼくはもう、イヤなんだよ」
「イヤなら嘘ついてもいいの? みっこのことも嘘ばっかり! なにも知らないわたしが、バカみたい!」
「そんな… やっぱり、今話すことじゃなかったな。ぼくだって迷ってるんだ。さつきちゃんを置いて、東京には行けないし…」
「いいわよ! 川島君は東京でもどこでも行けば。そしてなりたかったカメラマンになって、みっこを恋人にして写真でも撮ってればいいわよ。長崎でやってたみたいにっ!」
「さつきちゃん…」
「もういいっ。ふたりしてわたしのこと騙して。もう、いやっ!」

最後はもう、涙声だった。
もう、どうでもいい!
川島君が東京に行きたいのなら、行けばいいし、わたしと別れてみっことつきあいたいのなら、そうすればいい。

そりゃわたし、今でも川島君のことは好き。
だれよりも。

そう…
森田美湖よりも。

川島君とは、やっぱり別れたくない。
だれに渡すのも、イヤ。
たとえそれが、みっこでも。

だけどもう、耐えられない。
わたしの気持ちはこの人を求めてるけど、別の自分が、激しく彼を拒んでる。
川島祐二といっしょにいることを、激しく嫌悪している。

みっこを呼ぶ声で話しかけられたくない。
みっこを見る目で見つめられたくない。
みっこを触れた唇で触れられたくない。
みっこを抱いた腕で抱かれたくない。

とにかくわたしは、今は少しでも早く、この人から離れたい!

「クルマ、止めて。わたしここで降りる!」
「さつきちゃん」
「降ろして!」
「今ここで降りるってことは、ぼくたちが別れるってことだよ」
「いいじゃない。川島君はわたしと別れたいんだから」
「ぼくはそんなこと、言ってない」
「いっしょよ。東京に行くんでしょ」
「もうちょっと、落ち着いて話そう」
「イヤ! わたしもう、川島君のことなんか、どうでもいい」
「さつきちゃん」
「大ッキライよ! 川島君も! みっこも!」
「…」
「もう、別れましょ!」
「…」
「川島君とつきあった1年なんて、無駄だった。意味がなかった! 時間を戻して!」
「…」

その言葉に川島祐二はなにも言わず、どんなことがあっても今まで見せたことがなかった、諦めたような、冷めた表情でわたしを見て、プイと視線をはずし、言い放った。
「そうだな。みっこはいいよ。美人だし、理性的だし、ヒステリーなんか起こさない。さつきちゃんももうちょっと、みっこのこと、見習ったら?」
「早くクルマ止めてっ! 降りるっ!!」

森田美湖なんかと較べないで!
それが本心なのね?
やっぱり川島君は、わたしよりみっこの方がいいんだ!

『みっこのこと、見習ったら?』

それは、最後のひと言だった。
川島君はそれっきりなにも言わず、クルマを舗道に寄せて、スピードを落とした。

え?
本当にわたし、降ろされるの?
自分でそう言ったくせに、本当にそうなるのは、イヤ!
だけど『やっぱり降りない』なんて、今さら言えない。
もう、賽(さい)は振られたんだ。
口に出した言葉は、取り戻せない。
こぼれた水は、元に戻らない。

川島君がクルマを止めるとすぐ、わたしは黙って『フェスティバ』のドアを開けた。
彼の方を見ずに、うしろ手でバタンとドアを閉め、わたしはそのまま歩いていく。

『行くな。さつきちゃん』

わたしの背中で、そう呼び止める彼の言葉を、期待しながら…

“ヴゥゥゥ…”
しかし背中からは、荒々しいクルマの発進音。
わたしは振り向けないまま、歩き続けた。
そんなわたしを『フェスティバ』は、タイヤを軋ませて追い越していき、走り去っていった。

…川島君はわたしを脅かすだけで、すぐにクルマを止めるつもりなんだ。

『フェスティバ』は赤に変わったばかりの交差点に突っ込み、ウインカーも出さずに角を曲がって、わたしの視界から消えた。

…川島君はブロックを一周して、またここに戻ってくるつもりなんだ。

しばらくの間、わたしは朝の街角にぼんやり突っ立って、大通りのまばらなクルマの流れを見ていた。
だけど、赤の『フェスティバ』は、いつまで待っても、姿を見せなかった。

「わたしたち。もう、別れたのね」

そんなひとりごとを言って、わたしは空を見上げる。
朝の光がまぶしい。
わたしは睡眠不足で真っ赤になった、腫れぼったい目を、細めた。

「もう… いい!」

涙は、出ない。
泣いてもおかしくない場面なのに、『さよならをした』というのが全然実感できなくて、涙が出なかった。

 わたしは淡々と歩き、始発のバスに乗り、電車を乗り継いで、家に戻った。
心はカラッポ。
なんにもしたくない。

部屋に入るとそのままの格好で、ベッドに倒れ込む。
ほんとはいちばん親しい人に電話でもして、泣いてわめいて今あったことを話せば、少しはすっきりもするんだろうけど、こんなことみっこに電話して、話せるわけもない。
それに今頃、みっこの部屋には、川島君が戻ってきているかもしれない。

「そんなの、どうだっていい!」
そうつぶやいて、わたしはベッドに顔を伏せた。
眠ってしまえば、なにも考えなくてすむ。
睡眠不足のせいもあって、わたしはすぐに、深い眠りについた。

 

RRRRR… RRRRR… RRRRR… RRRRR… RRRRR… RRRRR… RRRRR…

遠くでベルが鳴っている。
幻聴かもしれない。

 わたしは目を醒した。
窓の外は靄がかかったように仄(ほの)暗く、くすんだいわし雲が、わずかに茜色に染まっている。
わたし、一日中眠っていたのね。

「うう〜っ。頭が重い」
朦朧(もうろう)とした頭を振って、わたしはベッドから起き上がった。
すっきりしない、イヤな目覚め。
電話のベルは一度止んで、再び鳴りだした。
ぼうっとした頭を抱えながら部屋を出て、わたしは機械的に受話器をとった。

「もしもし… さつき?」
受話器の向こうからは聞き慣れた声が、力なく響いてくる。
みっこから?
今の状態で、いったい彼女と、どんな風に話せばいいんだろ?
「…はい」
なにも考えることができず、わたしはただ慇懃(いんぎん)に、ひとことだけ返事をした。

「眠っていたの?」
「ええ」
「ごめんなさい。起こしちゃって」
「いい。もう夕方だし、起きなきゃいけなかったから」
「さつき…」
「…」
「ごめんなさい」
「…なに、あやまってるの?」
「昨日…」
「夕べのこと?」
「ええ… あたし…」
「別に、もう、あやまってもらわなくても、いい」
「でも…」
「あやまるくらいなら、はじめっから、やらなきゃいいじゃない」
「…」
「今さらみっこにあやまってもらっても、もう、どうしようもないもん」
「さつき。あなたたち…」
「ええ。別れたわよ」
「ほんとうだったの?」
「さすが、情報早いわね。みっこ」
「…川島君から聞いて」
「どうして川島君、みっこにそんなこと、いちいち報告するの?」
「…」
「みっこと川島君って、そうやって、いつも連絡とりあってたのね」
「いつもっていうわけじゃないけど…」
「川島君、そこにいるの?」
「ううん」
「もう、帰ったの?」
「もう、って?」
「わたしと別れたあと、みっこん家(ち)に行ったかと思って」
「そんなことないわ。朝、さつきといっしょに帰ったきりよ」
「ふ〜ん。なんか、意外」
「さつき。説明させてよ」
「なにを?」
「あたし、昨日は混乱してて… 助けに来てくれたのは、てっきり文哉さんだと思って…」
「やめてよ! そんな見え透いたウソ!」
「…」
「もういいわよ。みっこがだれを好きでも。別にわたしにはもう、関係ないんだから」
「…ごめんなさい」
「みっこって、やっぱり、すごいよね」
「え?」
「わたし、全然気づかなかった」
「…」
「ううん。『みっこは川島君のことが好きなのかな?』って疑ってたときもあったわ。
でも、先週の夜。公園でみっこから、『藤村さんが好き』って打ち明けられて、すっかり信じ込んでた。
あのときは迫真の演技だったもんね。涙まで流して。
さすが、女優の話がくるだけのことはあるわよね」
「…」
「モルディブに行ったときね。実はわたし、みっこが藤村さんとキスしているところ、見たのよ」
「えっ?」
「月明かりの海岸で、みっこと藤村さん、抱き合ってたでしょ」
「…」
「それを見てたから、みっこが『藤村さんのこと好き』って言ったとき、わたしもすっかり信じちゃったのよ。あれはいったい、なんだったの?」
「あたし… あのときはただ、さつきたちのことが羨ましくって。だれかと肌を重ねたくって…」
「みっこは、だれとでも寝るの?」
「ひどい言い方しないでちょうだい。あのときはちょっと、その気になっただけ。
あたし、文哉さんのことは好きだし、さつきたちのことで、なんだか動揺してたから」
「動揺って、わたしに川島君を寝盗られたとでも、思ったわけ?」
「そうじゃない! でも… 純粋に愛しあっているあなたたちが、ほんとに羨ましかった」
「あのときからみっこ、川島君のこと、好きだったのね」
「…」
「もうはっきりさせよ。
みっこが好きなのは、川島君なのね?」
「…」
「そうなのね?!」
「……ええ」
「…おめでとう」
「え?」
「よかったじゃない。わたし、みっこの恋、応援してたから」
「さつき…」
「なんだかんだ言って、川島君をモノにできたんだから。川島君もみっこのこと『いい』って言ってたし。みっこの望みどおりになったんでしょ?」
「…あたしが望んでいたのは、こんなんじゃない」
「じゃあ、なにが望み?」
「あたし、川島君とつきあいたいなんて、思ってない。さつきから川島君を奪おうなんて、これっぽっちも考えてなかったから…」
「いいわよ。そんな綺麗ごと言わなくても」
「綺麗ごとなんかじゃ…」
「好きな人とつきあいたくないなんて。あるわけないじゃない!」
「…」
「なんかわたしって、バカみたい。みっこのこと、応援したりして。自分の恋敵だったのにね」
「…そんな」
「わたし、ずっとみっこに騙されてた。嘘、つかれてた」
「ごめんなさい。だけどあたし、あなたとはずっと親友でいたいから…」
「嘘で塗り固めた親友? そんな友情ってないわよ!」
「…」
「昨日、みっこが話してくれた長崎でのことだって、どうせ口から出まかせだったんでしょ?!
あのときわたし、『みっこはわたしと川島君の仲を、持ってくれようとしてるんだな』って思って感動したけど、損しちゃった」
「そんなことない。ほんとの話よ!」
「嘘! みっこは『誘われたときは、悩んだ』とか『変なことになったら困る』とか言ってたけど、ほんとはそうなるのを望んでたんじゃない。『文哉さんが好きだから』とか、嘘ばっかりついて!」
「…それは。あたしが文哉さんを好きなことにしておけば、さつきとはうまくやっていけるんじゃないかと思って…」
「『うまくやっていける』って、わたしのこと、うまく騙し通すつもりだったってことよね」
「違う! あたしも… あなたに嘘をつくのは、心が、痛かった… 潰れそうだった」
「いい子ぶらないでよ!」
「そんなつもりじゃ…」
「もうわたし、みっこのこと、なにも信じられないから」
「ごめんなさい。ほんとにごめんなさい。でも、あたしの話も聞いて」
「聞きたくない! どうせ嘘っぱちの話だし。みっこは嘘しか言わないし!」
「ひどいっ。そんなひどいこと、言わないで」
「どっちがひどいのよ! 嘘ばっかりついて、わたしを騙して!
もういいから、わたしのことは放っといてよ! もう電話してこないで!」
「そんな言い方しないで! いくらさつきだって…」
「だってなによ! わたし、今までみっこに友だちができなかった理由が、よくわかった。
みっこみたいにワガママで嘘つきで、親友の彼氏でも狙うような女。友だちなんかできないわよ!
もうわたしのことは放っといて!」
「さつき。さつき!」

受話器の向こうのみっこの懇願する声も聞かず、わたしは一方的に電話を切った。

わたしって、最低。
なにもかもブチまけてしまって、わたしはいったいどうしたいの?
今、いちばん傷ついているのは、川島君の言うとおり、森田美湖なのに。
それなのにわたしは、彼女の気持ちをまったく考えてやることもできず、わたしの一方的な感情ばかり振りかざしてしまった。

わたしはきっと、みっこに復讐したかったのかもしれない。
酷い言葉を投げつけて、みっこのこと、傷つけてやりたかったのかもしれない。
この半年の間、みっこには鬱屈した思いを、いつだって味わわされてきた。
そして、どういういきさつにしても、結果的にみっこのせいで、わたしと川島君は別れたんだから。
だからみっこにも、わたしと同じくらい傷ついてほしい。
そんな勝手なことを考えていたのかもしれない。

そんなわたしだから、『みっこのこと、少しは見習ったら』って、川島君から言われるのも、当たり前か。
みっこもあきれてるよね。
ううん。
あそこまで言ってしまったんだもん。
怒ってるよね。
わたしのこと、許せないくらいに。

 

電話であんなひどいことを言った以上、もうみっことも、友だちでいられない。
わたしは、自分がいちばん大事にしていた恋人と親友。川島祐二と森田美湖のふたりを、いっぺんに失くしちゃったんだ。

わたしはいつでも、あのふたりに対する、コンプレックスがあった。
川島祐二は、わたしが果たせない夢を、確実に現実にしていき、自分の道をしっかりと歩いている。
森田美湖は、わたしにない魅力をみんな持っていて、だれが見ても素敵な女性。
このふたつの現実から逃げようと、この半年くらい、わたしはそればかりを考えていたのかもしれない。
今日、ふたりにあんなにまでヒステリックに当たり散らしたのも、そんなわたしのコンプレックスの裏返し。
もし、『ディズニーランド事件』のことも、『長崎事件』のことも、そのときにちゃんと向き合って、話し合って解決していたら、わたしたちはこんなひどい結果にならなかったかもしれない。

ううん。
そんなことない。

いずれはこうなる、運命だったのかもしれない。
人間なんて、結局ひとりぽっちなんだから。
恋人だって親友だって、長い人生の間で、一瞬だけ交わるエトランゼ。
所詮、他人じゃない。

「いいもん。今までだって、みっこも川島君もいなくてやってこれたんだから、その頃のわたしに戻るだけじゃない。これからだって、新しい友だちや彼氏作って、楽しくやっていけるわよ!」

そんな強がりを言いながら、わたしはようやく、涙が溢れてきた。
そうすると、今度は止まらない。
わたしは一晩中、ベッドのなかで泣き明かした。

 

 

その日から、川島祐二からも森田美湖からも、もう電話がかかってくることはなかった。

END
18th Apr.2016

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